「IT部門に所属していないから、自分にはIT経験がない」と考えている方は多い。しかし所属部署でIT経験の有無を判断すると、自分が持っている経験を過小評価することになる。採用側が見ているのは所属ではなく、課題を整理し改善策を設計し、定着させた経験があるかどうかだ。
この記事の対象は、事業会社で業務部門・企画部門・現場部門のマネジメントを担っている方と、SIerやIT周辺で改善の実務を持つ層である。未経験からのIT転職の話ではない。結論として、環境を変える前に、今の仕事の中で何を経験しているかを棚卸しする順番を勧める。
相談の現場で多い「うちではIT経験を積めない」という前提
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「うちの会社ではIT経験を積めない」という言い方は、キャリア相談で繰り返し出てくる。本人はほぼ例外なく本気でそう思っている。
ただし職務経歴書を一緒に読み解くと、DX文脈で評価される記述が本人の自己認識より多く埋もれていることがある。本人が「これは現場の仕事であって、ITの仕事ではない」と切り分けてしまっている点が原因だ。業務改善、KPIの可視化、工数削減、品質改善といった経験を、IT経験の範囲外だと考えている。
この記事はその切り分けが妥当かどうかを問い直すもので、現職を否定するものではない。今の仕事の中にどのような経験が埋もれているかを確認し、そのうえで現職で積み増すか、環境を変えるかを判断する材料にしてほしい。
業務改善・品質改善・工数削減・KPI可視化は、課題を整理し改善策を設計する仕事
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業務改善、品質改善、工数削減、コスト削減、KPIの可視化、業務フローの見直しは、一見すると現場の仕事に見える。しかし本質的には、現状を観察し、課題を構造化し、どこに手を入れれば効果が出るかを設計する仕事である。
この構造化と設計の部分は、ITやDXのプロジェクトで求められる思考とほとんど同じだ。違いは、手段としてシステムやデータを使うかどうかであって、思考の型ではない。
営業職・ビジネス職からITコンサルへ転職する方法でも触れているが、課題を設定し、改善を設計し、関係者を巻き込む経験は、IT部門でなくても積める。逆に、IT部門にいても、決まった手順を実行するだけの役割であれば、設計の経験は積めない。
改善策を考える過程で、AI・システム導入・データ活用に触れている
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改善策を検討する過程で、生成AIやローカルLLMの利用、業務システムの導入、データの活用を検討することがある。検討して見送った経験も含めて、なぜその手段を選ばなかったのかを説明できるなら、それは判断の経験として意味がある。
どんな仕事にもKPIがあり、どんな仕事にも改善活動がある。その改善を仕組みとして定着させることが、DXやAI活用につながっていく。AIリテラシーは環境で決まる|ITコンサルが転職前に確認すべき5つの見極め点という記事でも書いたが、AI・DXに関わる経験は、所属部署ではなく、改善の設計に関与できる環境にいるかどうかで決まる。
私自身も、社内で生成AIや開発ツールについて学ぶ機会が増えており、まだ勉強中の立場だが、ITと現場が別の世界ではないという実感がある。改善の設計と、AI・システムの検討は、地続きの仕事だ。
採用側が「IT・DXの実務経験」として見ているのはどこか
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所属部署名や使用ツール名の羅列ではなく、課題設定から改善の設計、関係者の巻き込み、定着までのどこを担ったかが見られる。改善が一度きりのイベントで終わったのか、仕組みとして回り続けたのかは、評価の分かれ目になりやすい。
求人票には「IT経験」としか書かれないため、その中身の粒度は面接で確認するしかない。逆に、経歴書の書き方次第で、同じ経験がまったく評価されない形になってしまうこともある。
技術経歴書の書き方完全ガイド|採用側が最初に見る項目と強みの言語化戦略ではエンジニア向けの経歴書の書き方を扱っているが、ビジネス職の職務経歴書でも同じ構造が当てはまる。改善の背景、自分が担った範囲、定着の仕組みまでをセットで書く。
今の仕事を棚卸しする視点
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自分が関与した改善を、KPI・工数・品質・業務フローのどこに効いたかで分類してみる。その改善で、誰を巻き込み、どこで合意を取り、どのように定着させたかを書き出す。
手段(システム・データ・AI)を検討した場面があれば、採否とその理由をセットで残す。「検討したが見送った」という判断も、判断の経験として意味がある。
この棚卸しは職務経歴書のためだけでなく、今の職場で次に何を取りにいくかを決めるためにも使える。生成AIでコンサルはいらなくなる?採用現場から見た淘汰される役割と残る役割で書いたように、AI時代に残る役割は、課題の設定と改善の設計ができる役割だ。今の仕事の中で、その経験をどこまで積めているかを確認する。
それでも環境を変えたほうがよいケースと、現職に残る選択肢
改善の設計や意思決定に一切関与できず、決まったことを実行するだけの役割が固定されている場合は、棚卸ししても積み上がらない。一方で、現職のほうが改善の裁量を取りやすいケースもある。異動や社内の先行部門への参画で足りることもある。
配偶者・子供・住宅ローンを抱えた層にとって、環境の悪さだけを理由にした転職はリスクが釣り合わないこともある。コンサルの専門性は「広く浅く」で終わるのか—市場で評価される条件と証明の粒度で書いたように、環境を変えることで専門性が広がる反面、定着のリスクもある。
動くかどうかを判断するために、状態で見極める基準を持っておく。改善の設計に関与できたか、手段の選定に呼ばれたか、定着の責任を持ったか。この3つが揃わない状態が続くなら、環境を変える判断に移る。
まとめ:環境を変える前に、視点を変えて棚卸しする
IT経験はIT部門だけで積めるものではなく、今の仕事の中にもDXやAIにつながる経験がある。まずは自分の仕事を別の視点から見直すことが、キャリアチェンジの第一歩になり得る。
そのうえで、経験が積み上がらない構造なら環境を変える判断に移る。棚卸しをせずに環境だけを変えても、次の職場で同じ問題に直面する可能性がある。
経験の棚卸しを一緒に行うキャリア相談も受け付けている。AIコンサルタントの将来性と真価|AI変革案件で問われる役割と生き残るスキルで書いたように、AI時代に問われるのは、課題を整理し改善を設計する力だ。今の仕事の中で、その力をどこまで積めているかを確認したい方は、ご相談いただきたい。
FAQ
Q: IT部門に所属していなくてもIT経験があると言えるのか
A: IT経験の実体は、所属部署ではなく、課題を整理し改善策を設計し定着させた経験だ。業務部門・企画部門でも、その経験を持っていればIT経験として評価されることがある。
Q: 業務改善の経験はDX人材の実務経験として評価されるのか
A: 業務改善の中で、課題の構造化、改善策の設計、関係者の巻き込み、定着の仕組み化を担っていれば、DX人材の実務経験として評価される。改善が一度きりで終わったのか、仕組みとして回り続けたのかが分かれ目になる。
Q: 職務経歴書で改善経験をどう書けば評価されるのか
A: 改善の背景、自分が担った範囲(課題設定・設計・巻き込み・定着)、手段の検討(システム・データ・AI)、成果の持続性をセットで書く。KPI・工数・品質・業務フローのどこに効いたかを具体的に示す。
Q: 今の職場でDX・AIに関わる経験を積む方法はあるか
A: 改善の設計に関与する機会を取りにいく。手段の選定に呼ばれる立場を作る。定着の責任を持つ。社内の先行部門への参画や、異動で環境を変える選択肢もある。
Q: 環境を変えたほうがよいのはどんな場合か
A: 改善の設計に一切関与できず、決まったことを実行するだけの役割が固定されている場合。棚卸しの結果、経験が積み上がらない構造だと判断できたときに環境を変える。