結論:コンサルは「いらなくなる」のではなく「再編される」
先に結論を述べます。生成AIによってコンサルタントという職業がなくなることは、当面考えにくいです。ただし、コンサルタントが提供してきた価値のうち、リサーチ・資料作成・分析の一次加工といった「作業」の部分は急速にAIへ移りつつあり、その結果として「評価される能力」と「ファームが採用したい人材像」が再編されています。淘汰されるのは職業そのものではなく、AIで代替可能な作業に価値の大半を依存してきた役割です。
この記事の想定読者は次の2つの層です。
- 現職のITコンサル・戦略コンサルの方 — 自分は淘汰される側なのか、今のファームに残って適応すべきかを見極めたい
- SIer・事業会社IT部門からコンサル転職を検討している方 — AIに代替される業界にこれから飛び込んで大丈夫なのかを判断したい
この記事では、①どの業務がAIに代替されやすく、どの業務が残るのか、②ファームの採用行動・求人要件がどう変わっているか、③淘汰されやすいコンサルと需要が増すコンサルの分岐点、④現職コンサルが今から仕込むべきリスキリングの優先順位、⑤転職市場でAI適応をどう見せるか——を、人材紹介の現場から見える採用市場の一般傾向とあわせて整理します。
要点は次の4つです。
- 代替されるのは「業務の一部」であって「職業」ではない。 ただし作業型の役割に寄っている人ほど影響は大きい
- ファーム自身が生成AIに巨額投資しており、コンサルの提供価値をAI前提で作り直している。 採用要件もそれに連動して変わっている
- 企業のAI導入は進んだが、成果につながっている企業は少数。 この「導入と成果のギャップ」こそが、実行支援型コンサルの需要を生んでいる
- 転職は唯一の解ではない。 現職に残ってAI時代の経験を積むことも、対等に合理的な選択肢
なぜ「生成AIでコンサルはいらない」と言われるのか
まず、この不安がどこから来ているのかを構造的に押さえます。理由は大きく3つあります。
理由1:コンサル業務と生成AIの得意領域が重なっている
コンサルタントの稼働時間の多くを占めてきた情報収集、資料ドラフト作成、議事録、データの整理・要約は、生成AIがもっとも得意とする領域です。McKinsey Global Instituteは2023年のレポート「The economic potential of generative AI」で、生成AIは従業員の労働時間の60〜70%を占める業務活動を理論上自動化しうると試算しています (McKinsey & Company, 2023)。知的作業の比率が高いコンサルティングは、この試算がもっとも直撃する業種のひとつです。
理由2:ファーム自身がAIへ大きく舵を切っている
代替の波は外から来ているだけではありません。ファーム自身が先頭を走っています。たとえばアクセンチュアは2023年6月、Data & AI領域に3年間で30億ドルを投資し、AI人材を8万人規模へ倍増させる計画を公式に発表しました (Accenture Newsroom, 2023)。デリバリーの生産性が上がれば、同じ売上を上げるのに必要な人員構成は変わります。「ジュニアを大量に張り付けて作業をこなす」従来型のピラミッド構造が見直されるのは自然な流れであり、海外大手ファームで人員計画の見直しが相次いで報じられているのも、この文脈で理解できます。
理由3:クライアント側が「AIでできるなら内製できるのでは」と考え始めた
生成AIの普及で、これまでコンサルに外注していたリサーチや資料化を「自社でAIにやらせればよいのでは」と考えるクライアントが増えました。単純な情報整理に高いフィーを払う合理性は、確かに薄れています。
つまり「コンサルいらない論」には一定の根拠があります。問題は、この波が「コンサルという職業全体」を押し流すのか、「特定の役割」だけを押し流すのかです。次の章で業務単位に分解します。
生成AIに代替されやすい業務・されにくい業務
「コンサルタント」という職業単位で淘汰を論じると答えを誤ります。単位は業務です。
代替されやすい業務:構造化された知的作業
- リサーチ・市場調査の一次収集: 公開情報の収集・整理・要約は、生成AIがもっとも早く実用水準に達した領域です
- 資料作成 (スライドドラフト): 構成案の生成、文章化、体裁調整。「パワポ職人」と呼ばれてきた役割の中核作業です
- 議事録・ドキュメンテーション: 音声認識と要約の組み合わせで、すでに多くの現場で自動化されています
- データ集計・分析の一次加工: 定型的な集計、可視化、仮説の叩き台づくり
共通点は、インプットとアウトプットの形式が明確で、正解の評価がしやすいことです。従来、若手コンサルの育成と稼働の場だったこれらの業務が圧縮されることで、「作業量で価値を出す」働き方は成立しにくくなっています。
代替されにくい業務:責任・文脈・利害が絡む仕事
- 論点設定 (イシューの定義): クライアント自身も言語化できていない「本当に解くべき問い」を特定する仕事。AIは与えられた問いには強力ですが、問いそのものの設定には経営文脈と現場の温度感が要ります
- 利害調整・合意形成: 部門間の対立、経営と現場の温度差、抵抗勢力への対応。変革プロジェクトの成否は多くの場合ここで決まりますが、AIには当事者間の信頼を作る機能がありません
- 実行伴走: 施策を「提言」で終わらせず、現場に入って定着まで運ぶ仕事。人と組織を動かす局面の連続であり、代替がもっとも難しい領域です
- 経営との対話・意思決定の後押し: 経営者が最後に求めるのは、正しい分析だけでなく「決断に伴うリスクを引き受ける議論の相手」です。責任を取れないAIには担えない役割です
要するに、「答えを作る」工程はAIに寄り、「問いを立てる」「人を動かす」「結果に責任を持つ」工程は人に残るというのが現時点の分岐です。
ファームの採用行動はどう変わっているか
では、この構造変化を受けて、採用する側のファームは何を変えているのか。人材紹介の現場から見える一般傾向を整理します。
求人要件の変化:「AI活用スキル」と「実行支援経験」の明記が増えた
ここ1〜2年で目立つのは、コンサル職の求人要件に生成AIの業務活用経験・AIプロジェクトのデリバリー経験が明記されるケースが増えたことです。あわせて、「戦略立案から実行まで」「クライアント先常駐での変革推進」といった実行フェーズへの関与を必須要件に掲げる求人も増えています。分析・提言だけで完結する役割の採用枠は、相対的に絞られている印象です。
背景にあるのは「導入と成果のギャップ」
なぜ実行支援に需要が寄るのか。クライアント企業側のAI活用の実態を見ると理由が分かります。
McKinseyの「The State of AI」(2025年11月) によれば、組織の88%が少なくとも1つの業務機能でAIを利用している一方、AIによるEBIT (利益) への寄与を認識している回答者は39%にとどまり、多くの企業が試験導入の段階から抜け出せていません (McKinsey, The State of AI, 2025)。
日本ではこのギャップがさらに顕著です。PwC Japanグループの「生成AIに関する実態調査2025春 5カ国比較」では、日本企業の生成AI活用率は56%と過半数に達した一方、効果が「期待を上回る」企業の割合は米国・英国の4分の1、ドイツ・中国の半分にとどまるという結果が示されています (PwC Japan, 2025)。
つまり日本市場では「AIを入れたが成果が出ない」企業が大量に存在します。この企業群が外部に求めるのは、きれいな戦略資料ではなく、業務プロセスと組織に踏み込んで成果まで運ぶ人材です。ファームの採用要件が「AI活用×実行支援」に寄っているのは、この需要構造の反映です。
一方で、企業側の要件定義はまだ揺れている
注意点もあります。「AIもDXも分かるコンサル」という求人はよく見かけますが、その中身が従来のコンサル業務にAI活用を上乗せした二重要求になっており、報酬レンジが要求水準に見合っていないケースも見られます。候補者側は、求人票の「AI人材歓迎」という文言だけで飛びつかず、AIを使って何をさせたいのか、実行フェーズにどこまで関与するのかを面接で具体的に確認すべきです。求人票の読み解き方はITコンサル採用要件の「必須」と「歓迎」の見抜き方で詳しく解説しています。
淘汰されやすいコンサル・需要が増すコンサルの分岐点
業務と採用市場の変化を踏まえると、個人レベルの分岐は次のように整理できます。
淘汰されやすい特徴
- 作業代行型: リサーチと資料作成が稼働の大半で、それ自体を価値として請求してきたタイプ。AIとの直接競合になります
- アドバイスだけ型: 提言はするが実行に関与せず、結果への責任を負わないタイプ。「分析と提言」の希少性が下がった今、フィーの根拠を説明しにくくなっています
- 階層依存型: ファームのブランドとピラミッド構造の中でのみ機能し、「自分は何の専門家か」を業界×機能の粒度で語れないタイプ。組織構造の見直し局面でもっとも影響を受けます
需要が増す特徴
- AI×ドメインの掛け算ができる: 生成AIの特性を実務レベルで理解したうえで、特定業界・特定機能の業務知識と掛け合わせて「この業務のどこにAIを入れると成果が出るか」を具体の粒度で語れる
- 実行と定着まで運べる: PoCで終わらせず、業務プロセス変更・組織の抵抗・現場教育まで含めて成果に到達させた経験がある
- 経営アジェンダを設定できる: AI活用を手段として、経営者と「そもそも何を変えるべきか」の議論ができる
ここで強調したいのは、分岐を決めるのは年次や役職ではなく、価値の出し方だということです。マネージャー以上でも作業管理だけをしてきた人は苦しく、逆にシニア層の利害調整力・経営対話力はAI時代にむしろ希少性が増します。40代・50代の経験がなぜ武器になるかは生成AI時代に求められるコンサルタントとは?40代・50代の経験が武器になる理由で掘り下げています。また、「価値のあるコンサルタント」に必要な能力・スキルセットの全体像はAI時代に価値のあるコンサルタントとは?生き残る特徴と必要スキルを参照してください。本記事では以降、キャリア戦略と転職市場での立ち回りに絞ります。
現職コンサルが今から仕込むべきこと:リスキリングの優先順位
「では何をすべきか」を、優先順位つきで示します。ポイントは、AIツールの学習そのものより、AI前提の案件経験を早く取りに行くことです。
Step 1:自分の稼働をAI代替可能性で棚卸しする
直近3カ月の自分の稼働時間を「リサーチ・資料作成・議事録」「分析・示唆出し」「論点設定・利害調整・経営対話」「実行支援」に分類してみてください。前者2つが7割を超えているなら、役割の転換を急ぐべきシグナルです。
Step 2:生成AIを「使われる側」ではなく「使う側」で経験する
自分の作業をAIで置き換える経験を、今のプロジェクトの中で作ります。重要なのは操作スキルではなく、「どの業務は任せられて、どこで品質が壊れるか」を自分の言葉で語れることです。この解像度が、後述する職務経歴書・面接での差になります。
Step 3:実行フェーズの経験を意図的に取りに行く
社内のアサイン希望で、戦略策定案件より実行・変革支援案件を優先する価値が上がっています。クライアントの現場に入り、抵抗に遭い、定着までやり切った経験は、AIには生成できない経歴です。
Step 4:業界×機能の専門性を言語化する
「何でもできるコンサル」の市場価値は下がり、「この業界のこの機能なら、AIをどう入れて何が変わるかまで語れる」人材の価値が上がっています。自分の案件履歴から掛け算を定義し直してください。
「残る」ことも対等な選択肢である
付け加えたいのは、この変化は転職しなければ乗り遅れるという話ではないことです。現職ファームがAI投資を進めているなら、社内でAI関連案件のアサインを取りに行くほうが、転職より低リスクで同じ経験を積める場合も多くあります。判断基準はシンプルで、今の環境で今後2〜3年、上記Step 2〜4の経験が積めるかどうかです。積めるなら残って仕込む、明らかに作業型の役割に固定されているなら動く——この順で考えることをお勧めします。
転職市場での立ち回り:AI適応を職務経歴書でどう見せるか
転職を選ぶ場合、AI適応のアピールには典型的な失敗パターンがあります。
「生成AIを業務で活用しています」だけでは、ほぼ評価されません。 ツールの利用経験は既に差別化要因ではないからです。評価されるのは、次の粒度まで落ちた記述です。
- 対象業務と成果: どの業務プロセスに生成AIを組み込み、リードタイム・品質・工数がどう変わったか (定量化できるものは定量で)
- 自分の役割: ツール選定・プロンプト設計・業務フロー再設計・現場定着のどこを自分が担ったか
- 判断の中身: 何をAIに任せ、何を人に残すと判断したか。その理由
- 再現性: 別のクライアント・別の業務でも同じ成果を出せる方法論として語れるか
面接では「AIで代替される業務が増える中で、あなたのフィーの根拠は何か」という趣旨の質問が、形を変えて必ず来ると考えて準備してください。シニア層の場合、面接官が見ているのは AIスキルそのものではなく、AIを前提に組織とデリバリーを再設計できるかです。シニアマネージャー転職で見られる評価軸の全体像はシニアマネージャー転職で見られる評価軸|ファーム側の本音にまとめています。
また前述のとおり、AI関連ポジションは企業側の要件定義が揺れているぶん、報酬レンジにも幅があります。オファー面談では要件と報酬の整合を確認し、必要な交渉を行ってください。具体的な進め方はITコンサル年収交渉 完全ガイドを参照してください。
なお、SIerや事業会社IT部門からこれからコンサルを目指す方にとっては、「AIで淘汰が進む業界に飛び込むのは危険では」という見方は一面的です。上で見たとおり、需要が縮んでいるのは作業型の役割であり、実行支援型の採用はむしろ活発です。システム導入・保守運用・現場調整の経験は実行伴走の素地としてそのまま評価対象になります。参入経路はSIerエンジニアがITコンサルへ転職する方法で詳しく解説しています。
よくある誤解
誤解1:「AIでコンサル市場そのものが縮小する」
市場が消えるのではなく、フィーの根拠が「作業量」から「成果への関与」に移るというのが実態に近い見方です。企業のAI活用が「導入済みだが成果が出ない」段階にある間 (前掲のMcKinsey・PwCの調査が示すとおり、現在まさにその段階です)、変革を運べる人材への外部需要はむしろ生まれ続けます。
誤解2:「ジュニアだけが危ない」「シニアは安泰」
どちらも不正確です。ジュニアは作業の場が減る一方、AIネイティブな働き方を早く身につけられる強みがあります。シニアは利害調整・経営対話という代替されにくい資産を持つ一方、タイトルと作業管理だけで価値を説明してきた場合は最も苦しい層になります。危ないのは年次ではなく、価値の出し方です。
誤解3:「今すぐ転職しないと手遅れになる」
そうは考えません。再編は数年単位で進む構造変化であり、拙速な転職より、現職か転職先かを問わず「AI前提の実行経験を積める環境」を選ぶことが本質です。現職でその経験が積めるなら残る判断は十分合理的ですし、動く場合も、直近の求人トレンドに飛びつくのではなく、2〜3年後に語れる経歴から逆算してください。
まとめ:淘汰の主語は「職業」ではなく「役割」
最後に、この記事の判断基準を整理します。
- 生成AIが代替するのはリサーチ・資料作成・一次分析などの構造化された作業。論点設定・利害調整・実行伴走・経営対話は当面人に残る
- ファームの採用はAI活用×実行支援へ寄っており、分析・提言だけの役割の採用枠は絞られている
- 自分の稼働の7割以上が作業型なら、役割転換を急ぐ。基準は「今の環境でAI前提の実行経験を積めるか」であり、転職はその手段のひとつにすぎない
- 職務経歴書では「AIを使える」ではなく、対象業務・成果・自分の判断・再現性の粒度でAI適応を語る
コンサルタントの仕事は、AIによって消えるのではなく、AIによって「人にしかできない部分」が露わになる、というのが採用市場から見える実像です。自分の価値がどちら側にあるのかを棚卸しするところから始めてください。
参考文献
- The economic potential of generative AI: The next productivity frontier — McKinsey & Company (2023)
- Accenture to Invest $3 Billion in AI to Accelerate Clients' Reinvention — Accenture Newsroom (2023年6月13日)
- The State of AI: Global Survey — McKinsey & Company (2025年11月)
- 生成AIに関する実態調査2025春 5カ国比較 — PwC Japanグループ (2025年6月23日)