現職のITコンサルタント、事業会社IT部門のマネージャー、SIerのPM・PL層に向けて書いている。AI活用の巧拙が職場でどう差になって表れているかを、公開された調査データをもとに整理する。
出典
- ITエンジニアの約6割が実感している「AI格差」とは? 若手ほど将来予測に「危機感」強く(まいどなニュース / 2026年8月20日配信)
- 調査主体はレバテック株式会社。全国の20〜50代のITエンジニア572人を対象に、2026年5月にインターネットで実施。以下の数値はすべて同調査によるもの。
調査の要点
- 職場でAI活用スキルによる「AI格差」が生まれていると答えたエンジニアは 59.3%。20代では 67.4% と高い
- 格差を感じる場面の上位は「担当業務範囲の差」51.3%、「評価・昇進スピードの差」39.5%、「アサインされる業務レベルの差」32.4%
- 今後、年収格差が拡大すると答えたのは全体の 65.0%、20代では 71.5%
見解
私はほぼ毎日コードを書いている経営者で、AIを開発とレビューに日常的に併用している。その立場から見ると、この調査でいちばん重要なのは「6割が格差を感じている」という見出しの数字ではなく、格差が最初に現れる場所が「担当業務範囲の差」だという点だ。
順番が逆に読まれやすいので補足したい。AIを使えるから良い仕事が回ってくるのではなく、良い仕事が回ってくるからAIを使う経験が積める、という循環がある。担当業務の範囲が広がれば、AIに任せる部分と人が持つ部分を切り分ける判断を毎日繰り返すことになる。この判断は、書籍や研修では身につかない。逆に、範囲が固定されている人は、どれだけ個人で勉強しても判断の経験だけが積み上がらない。差が開くのはここからで、評価・昇進スピード(39.5%)や年収の予測(65.0%)は、その結果として後から出てくる。
もうひとつ、データの読み方として押さえておきたいことがある。この調査が測っているのは本人の「実感」であって、生産性の実測値ではない。 59.3%という数字は、実際に何倍の差がついたかを示すものではなく、現場でそう感じている人の割合だ。20代のほうが高い(67.4%)のも、若手のほうが実際に不利という意味とは限らない。周囲との比較機会が多く、キャリアの残り時間を長く見積もるぶん、危機感として表れやすいという解釈も成り立つ。数字を煽り材料にせず、「何が測られたのか」を分けて読むほうがいい。
そのうえで、キャリア判断に効く論点として残るのはこうだ。年収の差はいきなり来ない。先に来るのは、任される仕事の範囲の差である。 そして範囲は、個人の努力よりも、組織がAIを本番業務にどこまで組み込んでいるかに強く依存する。この構造についてはAIリテラシーは環境で決まる|ITコンサルが転職前に確認すべき5つの見極め点で詳しく書いた。今回の調査は、その主張に対する外部からの裏付けとして読める。
採用する側の実感も付け加えておく。私が人を見るときに重視しているのは学びと適応力で、AIツールを何本使えるかではない。ツールの習熟は数か月で陳腐化するが、どの業務をAIに寄せ、どこで人が責任を持つかを切り分けた経験は陳腐化しない。職務経歴書でも、使ったツール名の羅列より、切り分けの判断と失敗のリカバリーを書いてあるほうが評価しやすい。
現職の読者にとっての含意
数字を見て焦る必要はない。確認すべきなのは次の2点だと考えている。
- 自分の担当業務範囲は、この1年で広がったか、固定されたか。 広がっているなら、AI活用の経験は自然に積み上がっている
- AIを業務に組み込む判断に、自分が呼ばれているか。 呼ばれていないなら、その理由が役割設計にあるのか、組織の方針にあるのかを切り分ける
転職がすぐに答えになるとは限らない。現職のほうが改善の裁量を取りやすいケースもあるし、配偶者や住宅ローンを抱えた状況で環境の悪さだけを理由に動くのはリスクが釣り合わないこともある。範囲を広げる打ち手が現職にあるならまずそれを試し、構造的に取れないと分かった時点で環境を変える判断に移る、という順番を勧めたい。関連する論点はAI時代のエンジニアキャリア戦略|今すぐ実践できる5つの方向性とAI活用案件で評価される経験|PoCではなく本番運用が問われる時代にも整理してある。
編集レンズ
実装・運用視点(デモが動くことと業務に乗ることの差)と、採用・組織への含意(AIが職務要件をどう変えるか)。調査データは実感値と実測値を分けて扱う。